だいふかない記録

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「本の読み方 スロー・リーディングの実践」感想

 どうも、ごきげんよう。だいふくです。ブログ始めました。

 今日紹介する本は、

 

「本の読み方 スロー・リーディングの実践」平野啓一郎

 

 です。

 

 ということで、以下感想文的な、まとめ。ネタバレというか、ざっくりと中身から引用しながら紹介していきますので、全く中身を知らない状態で読みたいという方は最寄りの本屋へ行ってください。

 

 

 

 本書は、一般に言われる「本を読むとこんないいことがある」「本を読まなくなった原因はどこにあるか」「この本を読むと良い」等の話から少し離れて、「そもそも本ってどんな風に読んだらいいの?」という点に注目した、読書指南書です。

 で、本とはどんな風に読んだらいいか。

 結論は、副題の通り「スロー・リーディング」です。

 この本は一貫して速読を批判し、その逆、遅読をするべきだと主張しています。遅読をすれば人生豊かになるし勉強も部活も面接も仕事もうまく行くし恋愛上手になります、という話が三部構成の内の前二部で書かれています。部活と恋愛は嘘です。で、最後の一部は何かというと、既存の文豪たちの名作を一部あるいは全部取り上げ、それらについてどういう着眼点でもって読むのか、実際に平野先生が手取り足取り教えてくれます。

 

 

 速読と遅読について、平野先生は、見知らぬ土地を訪れたときのシチュエーションで例えています。

 

※以下引用

 例えば、海外で見知らぬ土地を訪れることをイメージしてみよう。出張で訪れた街を、空き時間のほんの一、二時間でザッと見て回るのと、一週間滞在して、地図を片手に、丹念に歩いて回るのとでは、同じ場所に行っていても、その理解の深さや印象の深さ、得られた知識の量には、大きな違いがあるだろう。

※以上引用

 

 句点が二つしかないにも関わらず、非常に読みやすく、また極めてイメージの湧きやすい、親切な文章ですね。私もこんな文を書けるようになりたいものです。

 ともあれ。

 これは個人的に、なかなか興味深い例えだなと感じました。

 というのも、あくまで持論なのですが、「読書」と「旅行」は、本質的には同類で、その本質は「他人の人生の追体験」であると考えられるからです。

 

 人間は、ただ生きているだけでは、一回分の人生しか体験することができません。にもかかわらず、人としての深みは、個々人によって大きく差があります。

 この差を決定づける行為が、先の、「他人の人生の追体験」です。

 私が人生の追体験として考えている行為は、三つあります。

 

 一つ、本をはじめとした創作物に触れる事。

 二つ、旅行へ行くこと。

 三つ、他人と会話をすること。

 

 これらは全て、「他人の考え、生活を知ること」です。本には著者の、見知らぬ土地にはそこに住んでいる人の、会話には相手の、人生を凝縮して凝縮して凝縮して、そうして形になったものが存在しています。

 そういった、他人の人生を理解し、追うことで、通常であれば一人分の人生しか歩めないところ、何十人、何百人分の人生を歩むことができるのです。そうしてたくさんの人生を経験した人こそが、人間性に深みを持つわけです。

 ちなみにこれらは、受動的な体験でも良いのですが、能動的である方がより効果があると思われます。興味のない人との会話や、無理やり行かされる修学旅行より、明確な興味と関心を持っての行為の方が、後々の人格形成に大きく影響を与えるのは自明でしょう。

 

 脱線しました。話を本書に戻しましょう。

 本書において、平野先生は速読を良くないとする理由として、

 

・単なる知識は脂肪であり、本人の思考、人間性を深めることはない

・そもそも速読では情報を正確に受け取ることができない

・小説とはノイズを楽しむ媒体であり、骨格を追うだけでは意味がない

 

 等を挙げています。

 この内重要なのが、二つ目の、情報を正確に受け取れるか否かという部分です。

 一説によると、速読によって得られる「理解率」は内容の70%ほどで、これはゆっくり読んだ時と大差ない数字であるようです。

 そもそも、理解率という数字がどれだけアテになるのかも怪しい部分ですが、それは置いておくとして。ここで問題となるのが、残りの30%の精度がどうなのか、という点です。

 ゆっくり丁寧に読み進めた場合、仮に理解率が70%であったとしても、残りの30%を決定的に読み違えるという事は少ないでしょう。

 一方、速読のような、単語だけをザッと拾い、助詞助動詞を軽視する読み方では、例えば肯定を否定と勘違いするような、決定的な読み違いをする危険性があります。

 また、ただ読み違えるだけならさほど問題ではないのかもしれませんが、それが続くとさらに重大な事態へと発展します。

 人間はみなそれぞれの考え方を持っています。だから、物事を見るときも、必ずその色眼鏡を通して網膜に映し出します。そのため、速読のような読み方をすると、自分の色眼鏡を透過する単語だけが映し出され、また脳内で、自分の考えの通りにそれらが組み合わされることになりやすいです。

 すると、本来、他人の人生を追体験し、新しい価値観、考え方に触れることで思考を豊かにするはずの読書が、ただ自分に都合の良い言葉のみを選んで摂取し、自身の狭い見識をより強固なものにするだけの行為となってしまうのです。ツイッターでよく見ますね。

 

 

 

 と、まぁそんな感じで、速読はダメだよ、ゆっくり読もう、という本の紹介でした。

 ちなみにスロー・リーディングのコツとして「人に説明することを前提にして読む」というお話があり、私はこの言葉を信じてブログをはじめました。実際、一読してブログを書こうと思ったら全然内容がまとまらなかったので、パラパラと読み返しながらこの文章を書いています。他人に説明できるくらいにまで整理ができて、初めてその本の内容が自分の中に入ってきたと言えるのかもしれませんね。

 まだまだ紹介しきれていないポイントもたくさんありますので、そこらへんは是非実際のこの本を手にして、読んでいただければと思います。もちろん、リラックスできる環境で、ゆっくりじっくりと、時間をかけて。