だいふかない記録

だいふくがマンガの感想を書いたりほかのことを書いたりします

「スーパーカブ」感想

 どうも、ごきげんよう。だいふくです。王位戦どちらを応援したら良いのか分からないです。

 さて、今日紹介する本は、

 

スーパーカブ」トネ・コーケン

 

 です。

 

 以下、適当にネタバレしたりしなかったりしながら感想書いていくので、ネタバレ嫌な方は本屋に走ってください。メロブにも売ってます。

 

 

 さて。

 本書は、ラノベです。どうやら、もともとカクヨムで連載されていたものをスニーカーが書籍化したようです。

 しかし、タイトルが「スーパーカブ」とは、あまりにもラノベらしくないですね。良くも悪くも。表紙もそうで、ラノベ特有の超絶カラフルな表紙たちの中に、モノクロの少女が一人立っていて、そのシンプルさに心惹かれて購入を決意しました。

 

 本書の特異な点はタイトル、表紙以外にも、いくつかあります。

 まず、一話あたりの字数が極めて少なく、代わりに話数がとても多い事。280ページほどの中に全50話あります。

 次に、登場人物が異常に少ない事。主人公の女の子と、友人となる女の子。名前が出てくるのはこの二人だけです。あとは、バイク屋のおっちゃんとか、学校の先生とか、モブキャラ達がまぁちょいちょい出てくるかな、という感じ。

 そして、話がラノベとは思えないほどに落ち着いている事。

 一話あたりのページ数を少なくし話を多くするというコンセプトは、ラノベだと私の知っている限りGJ部くらいしかないんですけど、私が知らないだけで一般的なやり方だったりするんですかね。

 ラノベは中高生をターゲットにしていると一般に言われていますが、この作品のターゲットは、電車通勤する社会人だと思われます。

 社会人になって痛感したのが、通常の小説って通勤電車の中で読むとどうしても中途半端なところから始まって中途半端なところで区切らなきゃいけなくなるから、とにかく相性が悪いなという事でした。またそうしていると内容も忘れるし、情熱も減っていく。疲れてるから頭も働かないし、集中力が持続しない。結局ツイッターを開いてしまう。そうしてさらに集中力の持続力がなくなっていく悪循環。社会人としてわりと限界だったころは、そんな毎日でした。

 そういう自分に気づいたとき、私は、そういう人でも楽しめるように一話一話を短く区切った小説を作ろう、と考え、プロット作成に取り組みました。まぁ結局、グダグダしている間に先を越されてしまったんですけどね。

 で、そういう視点で本書を見ると、まさに『通勤電車で読むラノベ』を想定されているなと感じました。

 モノクロに近いシンプルな表紙、タイトル、挿絵は、周りから見られても恥ずかしくない。隙間時間にキリ良く読めるページ設定は、電車待ちの時間や揺られながらキリの良いところまで読める。登場人物が少なく、覚えなきゃいけない事が少ないから、疲れた頭でも読みやすい。また作風も非常に落ち着いた話で、大きな感情の起伏なく読めるし、中高生向けのラノベよりも大人好みな雰囲気を持っている。

 ということで、ある種の違和感を持って手に取った本作でしたが、ターゲットを想定すると、驚くほどすべての要素がカッチリハマって、やっぱプロってすげえなと感じました(こなみかん)

 

 さて、この作品の表面的な部分について語ってきましたが、中身もなかなか面白かったです。メインキャラが二人しかいなかったこともあり、彼女らの成長物語としての側面が非常に丁寧で、親にでもなったような気分で読んでいました。百合好きの方は百合百合した関係に萌えを見出すのかもしれませんが、本作におけるヒロインはどちらかと言うとカブ君だなという印象を私は受けたので、百合味は感じませんでした。二巻以降には期待が持てるかもしれません。

 

 本作はまぁいろいろ上手いなぁと感心しながら読んでいたのですが、特に、アイテム(キーワード)の使い方が上手いなぁと思いました。

 免許証と電話番号の書かれた紙を比較するシーンや、二人乗りの伏線について、ただ回収するだけなら、まぁ私にもできます。結構それだけでもまとまって見えるようになるのですが、本作ではその回収を通して、主人公の成長を綺麗に描いており、ただ変化を描いた場合と比べて何倍にも説得力を持たせることに成功しています。

 

 また、読みながら特に驚いた点が、描写の薄さです。

 この物語はざっくりと言うと、趣味も友達もなかった女の子がバイクと出会うことで、バイクに乗るという趣味を手に入れ、友達もできる話です。であるならば、例えば初めてバイクに乗ったとき、バイクで遠出した時、友達と友達っぽいことをした時等には、大きな感動があっても良さそうなものです。実際、おにぎりを作ってピクニック的なこともしています。現地でソフトクリームを購入しています。

 ですが、本作は、ほとんどの場面において、かなりギリギリのところまで感情的な描写が省かれ、淡々と描かれます。当然、最低限の描写はされるものの、それに伴う感動とか、高揚とか、そういったものが限界まで抑えて描かれているのです。

 私の感覚では、そういう場面はやはり強い感動、感情の動きを描きたくなります。その方が起伏も生まれるし、主人公の変化に説得力を持たせられるからです。要するに、主人公の感情は乱高下させた方が、面白くなりやすいのです。

 ですが、本作は、そうはしなかった。主人公の感情はあまり動かない。その振れ幅は、大きなきっかけになりそうなイベントを経ても、とても小さい。少しずつ、少しずつ変化してゆく。

 これが、ものすごくリアルだと感じました。

 主人公の女の子は、幼いころに父を亡くし、中学卒業と共に母に逃げられ、しかしそれを特に悲しむでもない程度には他人に興味を持たない人間です。家にはテレビもネット環境もなく、趣味もなければ友達もいない。もはやいつの時代の人間だと思いましたが、ともあれ、彼女はそもそも『何かを楽しむ』という行為自体、上手くできないんです。だって、ほとんどそういう経験をしていないから。ハンチョウはカイジに対して「欲望の解放のさせ方がへたっぴ」と言っていましたが、彼女はいうなれば感情の解放のさせ方が下手。というか、感情を動かさな過ぎて、凝り固まってしまっているのです。だから、バイクに乗っても、ピクニックに行っても、遠出をしても、感情は少しずつしか動いてくれない。

 そういうわけで、本作における描写が抑えめだったのは、彼女の境遇に合わせての物だったのではないか、と言うのが、私の考えです。

 ちなみに、登場人物が極端に少なかったのは、おそらく、この、主人公の変化を丁寧に描くためには他のキャラを登場させる余裕がなかった、というのもあるのではないかと思います。

 

 あと、本編最後の一文。私は、あれを読んで、ぐあーってなりました。とても良い文章です。いや別に、特にオシャレとか、気が利いてるとか、そういうのじゃないんですよ。オリジナリティあふれる文章でもない。多分大多数の人は、「ふーん」で終わる。ただ、私はあの文章に、作者のカブへの愛が全部詰まってるなって思いました。それが、なんだか、とても嬉しかったんです。それだけ。

 

 

 という感じで、以上、感想でした。ほかにもいくつか気になった点や上手いなぁと感心した点はあったのですが、書くのが面倒くさいのでやめておきます。君の目で確かめてくれたまへ。

 では。