だいふかない記録

だいふくがマンガの感想を書いたりほかのことを書いたりします

昔話

 どうも、ごきげんよう。だいふくです。宝くじはずれました。

 今回は趣向を変えて、昔話でもしてみようと思います。隙あらば自分語りしたいお年頃なのです。

 まぁ、結論を先に言っておくと、『怪しい宗教には気を付けよう』というお話です。ゆうさく注意喚起シリーズのBGMを脳内に流しといてください。

 ちなみに、身バレ防止のためにちょこちょこぼかして書いてますので、悪しからず。

 

 

 数年前の話です。

 当時の私は、もろもろあってかなり精神的に弱っていました。

 そんな状態である日、駅前を歩いていたら、若い女性の方(以後Aさんと呼ぶ)に声をかけられました。

『おっ、ナンパかな?』

 と思い、足を止めましたが、どうやらアンケートを取りたいとのこと。

『なるほどアンケートを装ったナンパかな?』

 と思い、応じることにしました。

 適当な世間話を交えながら、何かいろいろ話をした気がします。大体忘れてしまったのですが、何となく覚えてるのが、「今の人生の満足度は何パーセントくらいですか」とかそんな感じの質問。たしかその質問は結構序盤にされて、私は低い値を答えたので、そこでターゲットとして見られるようになったのかなと、今になって思います。

 あともう一つ、強く印象に残っているのが、Aさんがメモを取っている素振りを全く見せなかったことです。一応バインダーは持っているのですが、ひたすら私の話に相槌を打ち、雑談に応じるだけ。途中、私の視線に気づいたのか「大丈夫ですよ。ちゃんと覚えてますから」と笑顔で言われました。

 で、しばらく話した結果、多分満を持してなのでしょう。Aさんが所属する団体でやっていることは、私のためになる、詳しい話をしたいから本拠地に来ないか、という話をされました。

 事前にクソ怪しい団体名と、宗教系の集まりだという話は聞いていたので、どう考えても怪しさマックスです。が、最初にも言った通り、当時の私はかなりメンタルがやられていました。脳みそがまともに機能していません。しばし悩んだ後、『虎穴に入らずんば虎児を得ずだ!』と了承してしまいました。

 

 さて。そんなこんなで二人で雑談しながら歩いて、本拠地へ潜入しました。

 中に入ると、すでに何人か私のほかに誘われた人たちがいて、いろいろ話をしている様子でした。特に威圧的な様子や、お金のやり取りをしているといった雰囲気は見受けられません。

 ともあれ、部屋の奥の方へ案内されました。

 そこで、まずは性格診断みたいなものをやりました。ごく一般的な奴で、特別変わった設問などはありませんでした。

 そうしてそれを終え、答案をAさんに渡すと、団体のメンバーで、ちょうど遊びに来ていたという若い男性の方(以後Bさんと呼ぶ)が、フレンドリーな感じで「僕もいいですか」と、私の前に座ってきました。

 Aさんが書類を取りに行くと言っていなくなってしまったので、私は緊張しながらも、Bさんと雑談を交わします。

 結論を言うと、ここでの正着はスマホで団体名を調べる事だったのですが、初対面のBさんを前に、そんな非常識なことは私にはできませんでしたし、そこまで頭が回ってはいませんでした。

 やがてAさんが資料をもって来て、三人になりました。それからは基本的に、Aさんが団体の方針ややっている事等の話をし、私が相槌を打ち、Bさんはたまーに口出しをするという感じの状況が続きました。

 Aさんの話自体はなるほどと思わされる部分もあり、それなりに有用なものなんだろうなと感じました。月々××××円かかると言われましたが、それで自分の性格を少しでも良くできるなら、アリだなと感じました。

 とはいえ、危険な橋は渡らないを信条に生きてきましたから、その場で入会を決める気は全くありませんでした。そして、そのことはキッチリと、お二人に話をしました。

 お二人も、私のその言葉にうなずきました。

 で、それからも、延々と話が続きました。

 会話内容については、正直、ほとんど覚えていません。

 もしかしたら、単純に私が、家族以外の誰かと話したかったり、愚痴を言いたかったり、自分の嫌な部分を共有できる相手がほしかったり、私の人格を肯定してくれるのが嬉しかったりしただけなのかもしれません。

 彼女らとの話は楽しかったです。

 また、改めて考えてみると、多分、一番しゃべっていたのは圧倒的に私でした。彼女らは、かなりの時間、聞き役に徹していました。

 そうして、私に気持ちよくしゃべらせてくれたという事実は、今でも、とても嬉しく思っています。

 ともあれ、かなり長い時間、ひたすらしゃべり倒しました。

 で、向こうもしびれを切らしたのか、再び勧誘が始まります。団体に加入しないか、と。

 私は徹底的に「絶対に今日は決めません。一度家に帰ってから決めます」と言い続けました。が、向こうもかなり、しつこいくらいに粘ります。

 そしてその攻防は、Aさんの一言で、いともたやすく決壊しました。

「そういう人って、経験上、絶対に、連絡が来なくなるんですよ」

 たしかに、と、強く納得しました。

 そこからは、もう少しだけ悩んで、加入を決めました。

 そうして書類に本名と住所と書いて、出してしまいました。

 お金は、ちょうど持ち合わせがなかったので、次来た時に払います、という話をしました。

 

 うちに帰って、グーグル先生に団体名を訊いてみて、愕然としました。

 かなり有名な、普通にヤバいところでした。

 

 住所と本名を渡してしまった事まで両親に話をしたところ、私の精神状態を理解していたのもあり、「まぁたぶん大丈夫でしょ」と軽く流してもらうことができました。

 翌日、丁寧にお断りのメールを入れました。

 以後、全く関わりはありません。

 

 

 という事で、以上、大変やらかしたお話でした。

 実はこの出来事、

・アンケートなのに質問内容が物凄くざっくりしている

・アンケートなのに全くメモを取っていない

・団体名がクソ怪しい

・提出する書類の記入欄が、かなり変

 等、当時のポンコツ脳みそでも違和感を覚える要素が多数ありました。が、その違和感を危険信号に変換できないのが、精神的にやられている状態なんだな、と、つくづく感じました。そら悪徳宗教に騙される人が後を絶たないわけだわ。

 

 また、どこまで計画的だったのかはわかりませんが、徹底的にスマホを弄るスキを与えられなかったな、と、後になって思いました。アンケートから始まり、本拠地ではBさんを用意することで、自分以外の脳みそを活用するタイミングを完全に消し去っていました。

 ある意味、今回の最大の不運は、途中で尿意を催さなかった事かもしれません。

 

 ともあれ、こうしてAさんBさんを悪者として書いてきたわけですが、個人的には、この二人に対してはかなり複雑な感情を抱いています。

 この二人と会話していた時は、普通に楽しかったですし、またお世辞も多分に入ってはいたのでしょうが、私の人格をたくさん肯定してくれたことは、素直に嬉しかったです。

 なので、そんな彼女らの人の良さは、本物であってほしいと思います。

 ですが同時に、悪徳宗教団体に騙され搾取されている善人であってほしくない、悪人であった方がまだ救われる、という思いも、同程度にはあります。

 でも彼らが悪人だとすると、私の個人情報を悪用される恐れもあるので、やっぱり善人であってほしいかな、とか思いなおしたり。

 まぁ別に免許証見せたわけじゃないんで、偽名偽住所を書いたという可能性も否定できない以上、向こうも簡単に悪用できるとは思えませんけども。

 

 そんな感じで。

 精神弱ってるときはまともな判断ができないから、ある程度騙されるのはしかたないです。

 だから、どんな正論よりも、甘言よりも、目から鱗が落ちるような名言よりも、『何か重要なことを決める時には、死んでも一晩寝かせろ』という言葉を一番最初に持ってくるよう、意識をするようになりました。

 

 ちなみに最近、また若い女性からの怪しいアンケートに答えましたが、特に何もありませんでした。

映画「BLEACH」感想

 どうも。ごきげんよう。だいふくです。ニートです。

 さて、今日は映画BLEACHの感想を書いていこうと思います。といっても一回通しで見ただけなので、記憶違いや曖昧なところもあるかと思います。また原作ファンではありますが、初期のころの話はちょっと記憶が薄いので、ガチガチのファンの方から見るとそうじゃないだろうと思われる部分もあるかもしれません。ご容赦ください。

 ネタバレはしない方向でざっくり語りますので、映画未視聴の方もそこらへんは安心してお読みください。

 前置きが長くなりました。そろそろほんへに入りましょうか。

 

 

  • 大雑把な感想

 そこそこ面白かった、というのが正直な感想です。

 事前情報として、

「クソ映画ではない」

「アクションが良い」

「オサレ感はない」

福士蒼汰が9割一護」

 という話を聞いていたので、あまりBLEACHの雰囲気を期待しないで観に行ったのですが、思ったよりは原作の空気を再現しようと頑張っていて、結構好感触でした(再現できていたとは言ってない)

 また個人的にとても驚いたのが、CGのクオリティの高さでした。特に虚が割とマジでヤバイ怪物として見れて、なかなかの絶望感を与えてくれました。

 アクションシーンもなかなか良く、一部格好良くしようとしてかえって格好悪くしていた部分もあったものの、個人的にはるろ剣並のアクションを見せてくれたなと満足できました。

 

 

 福士蒼汰演じる一護のクオリティは、確かにかなり高かったです。個人的には9割とまでは言えないですが、それでもほとんど違和感なく見ることができました。オレンジの髪が普通に似合ってたのは、顔の良さ故なんですかね。福士蒼汰格好いいから好き(ホ並感)

 

 ルキアに関しては、髪型を変えたのが好判断だったなと思いました。後述する白哉の前髪がクッソ違和感あったのもあって、より強く思いました。

 ただ、やや舌ったらずなしゃべり方が、あの古臭い言葉遣いと合わなくて、どうしてもそこの違和感が付きまとい続けました。

 

 恋次白哉については、髪型の違和感が強すぎて、他にあんまり覚えてないです。ワックスで固めるにしてもヘタクソ過ぎないか? 白哉の前髪に至ってはべとべとしてそうだなあんまり触りたくないなって思った。正直あんまり演技も上手いと感じなかったのですが、あの見た目がハンデになっている気がしてならないので、言及は控えます。

 

 雨竜は、なかなか原作より痛々しいキャラになっていて面白かったです。シンプルな見た目をしているわりにコスプレ感が強かったのはなんでなんですかね。美味しいところを持って行ったのはいいけど、そこに至る描写がなかったため、原作未読の人たちにとっては謎すぎるキャラだったんじゃないでしょうか。

 

 織姫、タツキについては特に印象ないです。チャドはデカかったです。ケイゴがかなり原作まんまで、すごく良かったです。もっとケイゴと一護の絡みが見たかったですね。

 

 一心も、かなり原作に近いなぁと思いました。原作ほどはっちゃけてはいないけれど、実写で違和感がない程度に一心らしさが出ていて、とても好きでした。妹二人はこんな小さかったっけって思いました。原作では中学生だった気がするんですけど、違ったかな。

 

 キャラ全体を見ると、とにかく、一護、ケイゴ、一心のクオリティが高く、彼らについてはとても気分よく見ることができました。が、他のキャラがどうにもコスプレ感強いというか、作り物臭くて受け付けなかったというのが正直な印象です。

 

 

  • アイテム

 斬魄刀が、とにかく安っぽい。まぁホンモノ使うわけにもいかないですからたぶん仕方ないんですが、大画面いっぱいに映るときなどは、オモチャやんという印象しか受けなかったです。

 あとストーリーにも関わってくる話なんですけど、個人的に包丁みたいな姿の斬月が一番好きなので、そこが出てこなかったのは残念でした。斬月のおっさんすっ飛ばしてでも真の姿見せたほうが、一護の覚醒感も出るし良かったんじゃないかなーって思ったり。

 あとルキアが持っていた謎のGPSみたいなやつって、原作にありましたっけ。

 なんか、アイテム全般、それこそ衣装から小物に至るまでどれもこれもオモチャっぽいなぁと感じました。そのせいで余計にコスプレ感が出てしまったのも残念。

 

 

  • ストーリー

 んー、なんですかね。途中までは、悪くなかったです。ストーリーラインは基本に忠実で、感情の上げ下げもきちんと表現されていました。

 一護がなかなか煮え切らないのも当然で、その間退屈させないようにBLEACHらしい掛け合いが描かれていたのも良かったです。

 そこからの転換も自然。キャラの魅力を出せる形でストーリーを動かし、いくつもの決断を描いているのは上手いなと思いました。

 なんですけど、後半がかなり取っ散らかっているというか、なんというか。チャド、織姫の見せ場もかなり中途半端ですし、雨竜の行動原理もよく分からない。退場のさせ方も雑。最終戦は蛇足感満載だし、そこからのエンディングへの流れも不可解。こいつらなんで手のひら返したの? ラストの締めで結構持ち直した感じはありましたが、やはり後半の失速が痛かったように思います。

 

 

  • アクション

 良かったです。

 序盤は正直クソだなって思いながら見てたんですけど、徐々に動きが洗練されてきたというか、多分、一護の成長を表現するために序盤はあえてガバガバなアクションしていたんだなって感じでした。実際、修行パートの最初と最後でかなり動きが違い、かなり露骨とはいえ、成長を感覚的に理解できるというのは重要だなと思いました。

 でもワイヤーアクション使いすぎだし、あれ安っぽく見えるからやめてほしい。なんで変に格好良く見せようとするかなぁ。普通にガチバトルするのが一番格好いいのに。

 

 

  • CG

 虚のクオリティが恐ろしく高かったです。昔虚と対峙した時を思い出しました。

 それだけになんでしゃべらせたんやって思ったんですけど、虚って原作でもしゃべってましたっけ。覚えてない。

 蛇尾丸もなかなか格好良かったです。あのオモチャっぽい見た目からの格好いいCGだったんで、ずっと伸びてた方が良かったのでは説ある。

 あと個人的にとても感心したのが、蛇尾丸をぶん回している時に、刃先が画面手前側を何度もかすめていったところでした。あれ、多分漫画やドラマでは使えない、映画ならではの表現方法なんですよね。大画面で、観客は画面だけを注視している。だから、そこで画面の一番手前側を刃が高速で飛んでいると、反射的に目を細め、恐怖感を覚える。マジでヤバイ斬撃の中一護が戦っているんだという事が、こちらの本能に訴えることでとても良く伝わってきました。

 

 

 

  • まとめ

 ターゲットが良く分からない映画だな、と思いました。

 原作未読の層をターゲットにしているとしたら、ちょっと説明不足過ぎるかなと感じますし、逆に原作ファンをターゲットにしているとしたら、ちょっと改変しすぎかなと。

 原作の既読未読もそうですが、オタク向けかリア充向けかという点でも、やはりよくわかんないなという感じでした。

 というアレで、総合的に見ると、おすすめはしないけど、まぁ一回くらい見といてもいいかもね、という感じでした。メンズデーで1100円で見ましたが、損をしたという感覚はなかったです。でも1800円払ったらたぶん後悔してたかな。そんな感じ。

「スーパーカブ」感想

 どうも、ごきげんよう。だいふくです。王位戦どちらを応援したら良いのか分からないです。

 さて、今日紹介する本は、

 

スーパーカブ」トネ・コーケン

 

 です。

 

 以下、適当にネタバレしたりしなかったりしながら感想書いていくので、ネタバレ嫌な方は本屋に走ってください。メロブにも売ってます。

 

 

 さて。

 本書は、ラノベです。どうやら、もともとカクヨムで連載されていたものをスニーカーが書籍化したようです。

 しかし、タイトルが「スーパーカブ」とは、あまりにもラノベらしくないですね。良くも悪くも。表紙もそうで、ラノベ特有の超絶カラフルな表紙たちの中に、モノクロの少女が一人立っていて、そのシンプルさに心惹かれて購入を決意しました。

 

 本書の特異な点はタイトル、表紙以外にも、いくつかあります。

 まず、一話あたりの字数が極めて少なく、代わりに話数がとても多い事。280ページほどの中に全50話あります。

 次に、登場人物が異常に少ない事。主人公の女の子と、友人となる女の子。名前が出てくるのはこの二人だけです。あとは、バイク屋のおっちゃんとか、学校の先生とか、モブキャラ達がまぁちょいちょい出てくるかな、という感じ。

 そして、話がラノベとは思えないほどに落ち着いている事。

 一話あたりのページ数を少なくし話を多くするというコンセプトは、ラノベだと私の知っている限りGJ部くらいしかないんですけど、私が知らないだけで一般的なやり方だったりするんですかね。

 ラノベは中高生をターゲットにしていると一般に言われていますが、この作品のターゲットは、電車通勤する社会人だと思われます。

 社会人になって痛感したのが、通常の小説って通勤電車の中で読むとどうしても中途半端なところから始まって中途半端なところで区切らなきゃいけなくなるから、とにかく相性が悪いなという事でした。またそうしていると内容も忘れるし、情熱も減っていく。疲れてるから頭も働かないし、集中力が持続しない。結局ツイッターを開いてしまう。そうしてさらに集中力の持続力がなくなっていく悪循環。社会人としてわりと限界だったころは、そんな毎日でした。

 そういう自分に気づいたとき、私は、そういう人でも楽しめるように一話一話を短く区切った小説を作ろう、と考え、プロット作成に取り組みました。まぁ結局、グダグダしている間に先を越されてしまったんですけどね。

 で、そういう視点で本書を見ると、まさに『通勤電車で読むラノベ』を想定されているなと感じました。

 モノクロに近いシンプルな表紙、タイトル、挿絵は、周りから見られても恥ずかしくない。隙間時間にキリ良く読めるページ設定は、電車待ちの時間や揺られながらキリの良いところまで読める。登場人物が少なく、覚えなきゃいけない事が少ないから、疲れた頭でも読みやすい。また作風も非常に落ち着いた話で、大きな感情の起伏なく読めるし、中高生向けのラノベよりも大人好みな雰囲気を持っている。

 ということで、ある種の違和感を持って手に取った本作でしたが、ターゲットを想定すると、驚くほどすべての要素がカッチリハマって、やっぱプロってすげえなと感じました(こなみかん)

 

 さて、この作品の表面的な部分について語ってきましたが、中身もなかなか面白かったです。メインキャラが二人しかいなかったこともあり、彼女らの成長物語としての側面が非常に丁寧で、親にでもなったような気分で読んでいました。百合好きの方は百合百合した関係に萌えを見出すのかもしれませんが、本作におけるヒロインはどちらかと言うとカブ君だなという印象を私は受けたので、百合味は感じませんでした。二巻以降には期待が持てるかもしれません。

 

 本作はまぁいろいろ上手いなぁと感心しながら読んでいたのですが、特に、アイテム(キーワード)の使い方が上手いなぁと思いました。

 免許証と電話番号の書かれた紙を比較するシーンや、二人乗りの伏線について、ただ回収するだけなら、まぁ私にもできます。結構それだけでもまとまって見えるようになるのですが、本作ではその回収を通して、主人公の成長を綺麗に描いており、ただ変化を描いた場合と比べて何倍にも説得力を持たせることに成功しています。

 

 また、読みながら特に驚いた点が、描写の薄さです。

 この物語はざっくりと言うと、趣味も友達もなかった女の子がバイクと出会うことで、バイクに乗るという趣味を手に入れ、友達もできる話です。であるならば、例えば初めてバイクに乗ったとき、バイクで遠出した時、友達と友達っぽいことをした時等には、大きな感動があっても良さそうなものです。実際、おにぎりを作ってピクニック的なこともしています。現地でソフトクリームを購入しています。

 ですが、本作は、ほとんどの場面において、かなりギリギリのところまで感情的な描写が省かれ、淡々と描かれます。当然、最低限の描写はされるものの、それに伴う感動とか、高揚とか、そういったものが限界まで抑えて描かれているのです。

 私の感覚では、そういう場面はやはり強い感動、感情の動きを描きたくなります。その方が起伏も生まれるし、主人公の変化に説得力を持たせられるからです。要するに、主人公の感情は乱高下させた方が、面白くなりやすいのです。

 ですが、本作は、そうはしなかった。主人公の感情はあまり動かない。その振れ幅は、大きなきっかけになりそうなイベントを経ても、とても小さい。少しずつ、少しずつ変化してゆく。

 これが、ものすごくリアルだと感じました。

 主人公の女の子は、幼いころに父を亡くし、中学卒業と共に母に逃げられ、しかしそれを特に悲しむでもない程度には他人に興味を持たない人間です。家にはテレビもネット環境もなく、趣味もなければ友達もいない。もはやいつの時代の人間だと思いましたが、ともあれ、彼女はそもそも『何かを楽しむ』という行為自体、上手くできないんです。だって、ほとんどそういう経験をしていないから。ハンチョウはカイジに対して「欲望の解放のさせ方がへたっぴ」と言っていましたが、彼女はいうなれば感情の解放のさせ方が下手。というか、感情を動かさな過ぎて、凝り固まってしまっているのです。だから、バイクに乗っても、ピクニックに行っても、遠出をしても、感情は少しずつしか動いてくれない。

 そういうわけで、本作における描写が抑えめだったのは、彼女の境遇に合わせての物だったのではないか、と言うのが、私の考えです。

 ちなみに、登場人物が極端に少なかったのは、おそらく、この、主人公の変化を丁寧に描くためには他のキャラを登場させる余裕がなかった、というのもあるのではないかと思います。

 

 あと、本編最後の一文。私は、あれを読んで、ぐあーってなりました。とても良い文章です。いや別に、特にオシャレとか、気が利いてるとか、そういうのじゃないんですよ。オリジナリティあふれる文章でもない。多分大多数の人は、「ふーん」で終わる。ただ、私はあの文章に、作者のカブへの愛が全部詰まってるなって思いました。それが、なんだか、とても嬉しかったんです。それだけ。

 

 

 という感じで、以上、感想でした。ほかにもいくつか気になった点や上手いなぁと感心した点はあったのですが、書くのが面倒くさいのでやめておきます。君の目で確かめてくれたまへ。

 では。

「本の読み方 スロー・リーディングの実践」感想

 どうも、ごきげんよう。だいふくです。ブログ始めました。

 今日紹介する本は、

 

「本の読み方 スロー・リーディングの実践」平野啓一郎

 

 です。

 

 ということで、以下感想文的な、まとめ。ネタバレというか、ざっくりと中身から引用しながら紹介していきますので、全く中身を知らない状態で読みたいという方は最寄りの本屋へ行ってください。

 

 

 

 本書は、一般に言われる「本を読むとこんないいことがある」「本を読まなくなった原因はどこにあるか」「この本を読むと良い」等の話から少し離れて、「そもそも本ってどんな風に読んだらいいの?」という点に注目した、読書指南書です。

 で、本とはどんな風に読んだらいいか。

 結論は、副題の通り「スロー・リーディング」です。

 この本は一貫して速読を批判し、その逆、遅読をするべきだと主張しています。遅読をすれば人生豊かになるし勉強も部活も面接も仕事もうまく行くし恋愛上手になります、という話が三部構成の内の前二部で書かれています。部活と恋愛は嘘です。で、最後の一部は何かというと、既存の文豪たちの名作を一部あるいは全部取り上げ、それらについてどういう着眼点でもって読むのか、実際に平野先生が手取り足取り教えてくれます。

 

 

 速読と遅読について、平野先生は、見知らぬ土地を訪れたときのシチュエーションで例えています。

 

※以下引用

 例えば、海外で見知らぬ土地を訪れることをイメージしてみよう。出張で訪れた街を、空き時間のほんの一、二時間でザッと見て回るのと、一週間滞在して、地図を片手に、丹念に歩いて回るのとでは、同じ場所に行っていても、その理解の深さや印象の深さ、得られた知識の量には、大きな違いがあるだろう。

※以上引用

 

 句点が二つしかないにも関わらず、非常に読みやすく、また極めてイメージの湧きやすい、親切な文章ですね。私もこんな文を書けるようになりたいものです。

 ともあれ。

 これは個人的に、なかなか興味深い例えだなと感じました。

 というのも、あくまで持論なのですが、「読書」と「旅行」は、本質的には同類で、その本質は「他人の人生の追体験」であると考えられるからです。

 

 人間は、ただ生きているだけでは、一回分の人生しか体験することができません。にもかかわらず、人としての深みは、個々人によって大きく差があります。

 この差を決定づける行為が、先の、「他人の人生の追体験」です。

 私が人生の追体験として考えている行為は、三つあります。

 

 一つ、本をはじめとした創作物に触れる事。

 二つ、旅行へ行くこと。

 三つ、他人と会話をすること。

 

 これらは全て、「他人の考え、生活を知ること」です。本には著者の、見知らぬ土地にはそこに住んでいる人の、会話には相手の、人生を凝縮して凝縮して凝縮して、そうして形になったものが存在しています。

 そういった、他人の人生を理解し、追うことで、通常であれば一人分の人生しか歩めないところ、何十人、何百人分の人生を歩むことができるのです。そうしてたくさんの人生を経験した人こそが、人間性に深みを持つわけです。

 ちなみにこれらは、受動的な体験でも良いのですが、能動的である方がより効果があると思われます。興味のない人との会話や、無理やり行かされる修学旅行より、明確な興味と関心を持っての行為の方が、後々の人格形成に大きく影響を与えるのは自明でしょう。

 

 脱線しました。話を本書に戻しましょう。

 本書において、平野先生は速読を良くないとする理由として、

 

・単なる知識は脂肪であり、本人の思考、人間性を深めることはない

・そもそも速読では情報を正確に受け取ることができない

・小説とはノイズを楽しむ媒体であり、骨格を追うだけでは意味がない

 

 等を挙げています。

 この内重要なのが、二つ目の、情報を正確に受け取れるか否かという部分です。

 一説によると、速読によって得られる「理解率」は内容の70%ほどで、これはゆっくり読んだ時と大差ない数字であるようです。

 そもそも、理解率という数字がどれだけアテになるのかも怪しい部分ですが、それは置いておくとして。ここで問題となるのが、残りの30%の精度がどうなのか、という点です。

 ゆっくり丁寧に読み進めた場合、仮に理解率が70%であったとしても、残りの30%を決定的に読み違えるという事は少ないでしょう。

 一方、速読のような、単語だけをザッと拾い、助詞助動詞を軽視する読み方では、例えば肯定を否定と勘違いするような、決定的な読み違いをする危険性があります。

 また、ただ読み違えるだけならさほど問題ではないのかもしれませんが、それが続くとさらに重大な事態へと発展します。

 人間はみなそれぞれの考え方を持っています。だから、物事を見るときも、必ずその色眼鏡を通して網膜に映し出します。そのため、速読のような読み方をすると、自分の色眼鏡を透過する単語だけが映し出され、また脳内で、自分の考えの通りにそれらが組み合わされることになりやすいです。

 すると、本来、他人の人生を追体験し、新しい価値観、考え方に触れることで思考を豊かにするはずの読書が、ただ自分に都合の良い言葉のみを選んで摂取し、自身の狭い見識をより強固なものにするだけの行為となってしまうのです。ツイッターでよく見ますね。

 

 

 

 と、まぁそんな感じで、速読はダメだよ、ゆっくり読もう、という本の紹介でした。

 ちなみにスロー・リーディングのコツとして「人に説明することを前提にして読む」というお話があり、私はこの言葉を信じてブログをはじめました。実際、一読してブログを書こうと思ったら全然内容がまとまらなかったので、パラパラと読み返しながらこの文章を書いています。他人に説明できるくらいにまで整理ができて、初めてその本の内容が自分の中に入ってきたと言えるのかもしれませんね。

 まだまだ紹介しきれていないポイントもたくさんありますので、そこらへんは是非実際のこの本を手にして、読んでいただければと思います。もちろん、リラックスできる環境で、ゆっくりじっくりと、時間をかけて。